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ITベンチャーと外資系企業に特化した産業医事務所「リハビットHC」のブログです

非認知能力を鍛える 〜大人の学習〜

「非認知能力」って聞いたことありますか?最近流行りなんです。

もくじ

  1. 非認知能力とは
  2. 健康経営を考えるとき、非認知能力に注目しよう

 

非認知能力とは

認知能力すなわちIQで測定できるような一般的知能、に属さない能力のことを総称して「非認知能力 non-cognitive skills」と呼びます。…これを読んで、どんなものをイメージしましたか?

  • 性格の良さ(ってなんだ?)
  • 意欲(やる気崇拝乙)
  • 粘り強さ(おいおい根性論か?)
  • 身体能力(体育会系かよ)

例としてあげたこれらのいずれもが、仕事の成果に影響を持ちそうだということはなんとなく覚えがあるのではないでしょうか。カッコの中のような感想を持ち、「認めたくない」と感じた方もいるかもしれません。では「頭の良さが全てではない」あるいは「テストだけで頭の良さは測れない」というのならどうでしょうか。こちらは大体の人は受け入れられると思います。

受け入れやすさはともかくとして、じゃあテストの成績じゃなければ何が大事なんだよ?という問の答が「非認知能力」です。え?それって定義からして「テスト以外」ってことだろうと?そうですね、これはMECEとか言うまでもなく当たり前で、答えになってませんね。

非認知能力の内容をMECEに網羅することは難しいですが、ここでは特に「何が大事なのか」の具体的な応えたり得るものについて紹介しようと思います。

例えば経済学者のボーウェン氏が米国の大学中退率の高さ(なんと40%!尤も、個人的には中退が必ずしもマイナスとは限らない、とも思っていますが…)を取り扱った研究では、①共通テスト(SAT)の成績と②高校の通知表の結果では、大学卒業に関しては通知表の内容のほうが影響が大きかったという示唆が得られています。①は単なるペーパーテストの結果ですが、②は非認知能力も反映されているという仮説に基づけば、「学力だけではやっていけない」という(やや乱暴な?)結論が導かれるわけです。では、通知表に反映される学力以外の要素とは?

あるいは就学前教育の研究で有名なヘックマン氏の研究では、高校に実際通い卒業した者と、認定試験(日本の大検のようなものですね)で同等の学力があると認められた者との間で、年収や就業率に差があった(おそらくは想像通りですが、前者のほうが高かった)という結果が出ています。「学力だけが重要なら、差はないだろう」という発想には否定的な見解というわけです。集団生活によって得られる要素があるのかもしれません

  • 【自制心】
    • 意志力が強い、合理的な判断ができる、といったことと関わります。
    • 「計画を立て、達成度合いを評価し、行動につなげる」サイクルを自分で回すこと(継続、反復)が自制心を鍛えるためには有効といわれています。
  • 【忍耐力】
    • 勤勉性とも読み替えられるかも知れません。自制心ともリンクしそう。
    • 基本的なモラルの習得(しつけを受けること)、計画をきちんと立て、継続することが重要とされます。
  • 【やり抜く力(GRIT)】
    • TEDの動画同名の書籍で日本でも有名になりました。聞いたことがあるという方は多いでしょう。これは上のリンクの動画の話者であり、書籍の著者であるダックワース氏が米軍の士官学校での人材評価に関わった際に考案したモノサシ(その名もグリット・スケール!)に由来するものです。自制心や忍耐力ともリンクしますね。
    • 「能力は伸ばすことができる」という発想をもつことが有効であると言われる反面、限界があるという刷り込みがマイナス効果を持つとされています。
  • メタ認知能力】
    • 俯瞰した状況把握。考え方や振る舞いを変えるには、あるいは確信を持って邁進するには、自分の状況が一歩外れて見られていないと難しいものです。
  • 【創造性】
    • 工夫する力、独創性。これについてはインプットをどれだけ迅速かつ自由に結び付けられるか、という比較的認知能力寄りのスキルなのかもしれません。
    • オリジナリティー、クリエイティビティーの啓発については、無数の評論がなされています。
  • 【社会的適性】
    • リーダーシップ、協調性、共感力などもここに含めても良いかもしれません。ただし、無制限にそれらを発揮するというのではなく、空気を把握しつつ、必要な方向に持っていくためにどう振る舞うか、ということが重要です。周囲の中の自分が見えている状態で良いパフォーマンスを発揮するでしょうから、メタ認知能力とも関わりが強いと思われます。
    • これについても、山のような本が出てますね。

 

健康経営を考えるとき、非認知能力に注目しよう

非認知能力は鍛えることができる。この一言が真実であるならば、ここれはあらゆるキャリアを歩む者にとって福音でしょう。

もちろん、身体能力も、IQの文脈に乗る「認知能力」も、鍛えることは可能です。また、非認知能力も含めたいずれにおいても遺伝や環境が関わってくることも否めません。それでも、誰にとっても今ココからできることがあり、ある道で行き詰まったときに別の方法を模索できるということは有益だと思います。

「ある本を読み/ある人と出会って/ある経験を通して、人生が変わった」という話は巷にあふれていると思いませんか。こうした体験談で語られるエピソードは“〜によってIQが伸びた”という理解には繋がりません。多くの場合、「〜によって」と「人生が変わった」との間に、「考え方が変わり、行動を変えたことで」というフレーズが入ることで説明を果たすことができるのではないでしょうか。

Merizowは大人の学習を「変容的 transformative」と表現しています(現状維持型の“学習”を批判し、このようなものであるべしとして持ち出されている語です)。対して子どもの学習は「形成的」と表現されます。つまり大人の場合、一度形成した「視野」を再構成し直す、別の視点を自らの中に持つこと、が必要なのでしょう。

私は、非認知能力は言語的に説明可能な概念であり(成功例から帰納し理解を得て、自分に演繹することで体験し、言語を介して間接的にも教えられる)、それゆえ成人でも可鍛性に期待しやすいと考えています。この「いつであろうと、鍛え始めるのに遅くはない」というところに、主にはオトナの話である健康経営の文脈の上での意義を見出したいと思うのです。上で触れたように、大人にとっても変容的であれば学習が可能とするならば、それはまさに非認知能力の成長、視点あるいはパラダイムの獲得といえるのではないでしょうか。

ちなみに非認知能力を育てることの有効性は、就学前教育の話題でよく持ち出されるテーマです。早期にインストールされた行動様式は、たしかにより長期間に渡り人生に影響を与えるでしょうから、それは当然のことでしょう。なお、幼児期に非認知能力を鍛えることは、経済学的にも高い効果をもたらすとされています(このあたりの研究については、前出のヘックマン氏に多くの業績があります)。ですが、これは成人にとっては希望がないということを意味しないと考えます。上で触れたとおり、十分可能だということを理論的に確信していますし、先人の見識とも合致しています。さらに蛇足ですが私個人も、環境が変化し、経験を積むことで自身の振る舞いや考え方がずいぶんと変化をしたと感じています。その変化の原因と詳細を拙いながらも言語化できることが非認知能力の可鍛性を信じさせてくれますし、この変化を成長・進化と捉えられること、そこに価値を感じます。

閑話休題。上記の「非認知能力を鍛える」方法をビジネス用語で言えば、「質の高いPDCAを実践する」ことに他なりません。仕事ではPDCAができるのに自分のこととなると難しいという方には健康増進の重要性を理解していただくか、「健康に"も"役立つこと」がもたらす目先の利益(ダイエット効果、モテ、節約…)をアピールすることが有効です(自分のことはPDCAできるのに仕事となると、という方に対してはその逆でしょうか…)。

これは個人の成長についても重要な事ですが、個人の集団である組織のマネジメントにおいても基本となる考え方だと思います。いわんやその一部であるとともに、組織と個人の自他共栄のためのブーストツールである「健康経営」に於いても、柱となる要素のはずです。

もちろん知識も重要です。が、知識を教えることの効率を上げるためにも、まず考え方、行動パターンではないでしょうか。或いはOJTの前にビジョン共有の徹底、といえば今風かもしれません。

社会的サポートで持続的なストレス耐性をつくろう

ラインケアの重要性が注目を浴びています。今回は、社会的なサポートの重要性について知見をご紹介します。

もくじ

  1. 社会的サポートの効果についての疫学的な知見
  2. 社会的サポートは物理的変化を生じ、ストレス耐性に寄与する?

社会的サポートの効果についての疫学的な知見

ストレスチェック(組織としてどう活用するかについてこちらで解説しています)では、「周囲のサポート」を定量的に評価することが勧められています。これは、職場環境や作業内容、身体的なダメージ状況と並んでこの「サポート」が重要だと考えられているからで、1998年に考案された「簡易版職業性ストレス調査票」でも「ソーシャルサポート尺度」として、上司・同僚・家族の支援が得られているかどうかを評価することが提案されています。この評価尺度でみたときに、上司のサポートが薄い場合には、労働時間が長くなることがうつ病の発症リスクと関連付けられるという研究結果も出ています。

また、社会的サポートは寿命に対して身体活動性や喫煙、肥満、高血圧などと同等の影響を持っているとも言われています。サポートが乏しい状態だと、心血管リスクが高くなるとの報告もあり、いわゆる精神科領域に留まらない話にもなっています。

社会的サポートは物理的変化を生じ、ストレス耐性に寄与する?

近年では、心にかかったストレスに対処する力、自らの精神を元に戻そうとする力を「レジリエンス resilience」と呼び、研究対象とされるようになりました。これは数値では量りにくい、非定型的な脳の能力と言えるかもしれません(他にどんなものがあるか?生産性への寄与は?など、別の機会に触れたいと思います)。これを高めるための手法が開発されれば、大きな社会的寄与があるでしょう。たとえば楽観的であること。前向きなマインドを持つことが脳に変化を及ぼした(情動や意思決定に関わる領域の活動が、ネガティブな発想をした時よりポジティブな発想をした時のほうが高まる)という基礎的な研究データもあります。これと並んで、社会的なサポートも効果が大きいと言われているのです。

ストレスへの抵抗が人体の中でどのように行われているかを説明する際、神経脳科学的なアプローチからは概ね、2つの切り口が挙げられます。一つは自律神経系による早い反応、もう一つは視床下部・下垂体からの経路を介したゆっくりした反応です。こうした経路の調整にも社会的サポートが影響し、結果的に高いサポートはレジリエンスを高めるという報告もなされています。さらに、うつ症状の現れやすさに関わる遺伝子の発現にすら影響がある、というデータもあります。データそのものは脳そのものとの直接の関係を示唆しているものではありませんが、結果的に生じている現象としては重要な意義があると考えられます。

結果的に、社会的サポートは、「ストレスに強い心身」をつくることに繋がり、持続的効果をもたらすと考えられるのです。

 

蛇足

サポートさえしていれば、無理をさせても平気ってわけじゃないですよ… 慮られていないというのは、相手にはわかるものです。

オフィスから出るときは水を持とう

台風の被害が深刻なこのところですが、少し長い目で見るとまだまだ8月前半、バーベキュー夏フェスなど、野外イベントのシーズンです。IT ベンチャーの社員にはこうしたアクティビティーにも関心が高い方が少なくないと思いますが、対策はしっかり取られているでしょうか?暑い盛りに外に出ることはそれ自体が辛いことですし、当然喉も渇きます。おそらく多くの方にとって、「レジャーの際には水を持って外に出る」ということは自然なことです。アウトドアの活動が定期的な趣味になっている方にとっては水分補給は常識と化していることでしょう。が、普段はインドア派だという方は特に注意が必要かもしれません。今日はこうした暑い季節の熱中症対策について書いていこうと思います。

もくじ

  1. 熱中症とは
  2. オフィスワーカーの熱中症対策
  3. 補:水分バランスの話

熱中症とは

熱中症」とは高い温度が原因で体内の水分調節機構に問題が生じ、それが原因で生じるさまざまな症状を指します。最重症の場合、意識の混濁痙攣などが見られ、死につながることがあります。ふらつきや吐き気、めまいなどの軽度の症状であれば経験があるという方もいらっしゃるかもしれません。人間には体温調節機能が備わっていますが、これをつかさどっているのはいわゆる自律神経です。周囲の環境への適応力とでも言えばイメージしやすいかもしれません。もともと適応力・対応力に乏しい、という自覚のある方もいるかと思いますが、そうでなくとも体調や環境変化のスピードによってはついていけないことがあります。また、環境に適応するリソースを無尽蔵ではありませんから。当然補給がなされなければ最初は適応できていても、後から体調を崩す原因となるのです。

オフィスワーカーの熱中症対策

「オフィスワーカーにとっての熱中症リスク」と言うと、え?そんなことあるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん適切に反響がコントロールされたフロアの中であれば、滞在し続けることではリスクに晒されることはほぼ無いでしょう。問題は「環境変化」です。最も危険な場面の一つは退勤後の時間帯だと思います。つまり、空調の効いた快適なオフィスから外に出てご自宅に戻られる、あるいは次の予定までの間の移動中。このタイミングに危険があるように思うのです。

ビルの中と外では気温には大きな差があります。ビル内では冷えていたぶん、体も温度が下がっているので、高温環境は強いストレスです。また、外に出ることで湿度も上がる傾向にあると思います。ジメジメした環境の中では体感温度は上がりますし、汗をかくことによる体温の調節機構(汗をかいて蒸発すれば体温は下がります)がうまく働かず、より多くの汗をかこうとして脱水の傾向が強まると言われています。日の長いこの季節ですから、深夜までの残業後であであればいざ知らず、17時から19時くらいではまだまだ暑いものです。一日中働いて疲労がたまっている体にとっては、実にダメージが生じやすい環境と考えられます。さらに仕事中にお茶やコーヒーなどの飲料飲まれる方もいらっしゃると思いますが、これに含まれるカフェインには利尿作用があります。尿の水分は血液から供給されますから、この作用は体が使える水分の量を減らすということにつながるのです。汗以外の経路からの水分が失われるとなれば、これまた脱水リスクは強まるのです。

従ってお勧めしたいのは、退勤時に小さくても構わないのでペットボトルや水筒で水分を持ち出すということです。

頭のキレも体の充実も基本的なところから!「外部環境に適応する」生き物としての基本?に立ち返りましょう!

補:水分バランスの話

もとより日本人は水分摂取が不足する傾向があるようです(下記参照)。食物中からの水分摂取以外に、(体型にもよりますが)1〜2リットルの水分を摂ることを勧めます

なお必要摂取水分量の参考になる専門的な文献としては、こちら(英国アバディーン大学Shirreffs氏の研究。体内の水分動態についてのまとめ)があります。これに従えば、我々は2.6Lの水分を消費している=代謝で得られる分を除いた分(2リットル強でしょうか)を外部から取る必要があるということのようです。実態としては、国内メーカーの調査では、一般の方の7割超が1.5Lの水分を飲み物として取れていないとしています。コップ1杯を200mlとして、1食1杯飲んでもあと900ml必要と考えると、たしかにある程度意識的に飲む必要がありますね。ちなみに私はミネラルウォーターの1.5Lペットボトルを1日1本職場であけるようにしています(休日は気をつけてはいますが、イレギュラーになりがちです…)。

ただし先程カフェインの話で触れたように、せっかく水分をとっても有効に使えないというケースも存在します。水分を体内に留め干からびにくい環境にするためには、とる飲料の質も重要です(これについては スポーツドリンクについての注意喚起記事でも触れました)。 rehabithc.hateblo.jp

スポーツドリンクは一般人は避けるべし

暑い日が続きますね。熱中症対策は万全でしょうか?(熱中症の話は総論として別にお話します)カバンの中に500mlペットを忍ばせているあなたは気にしてますね!と言いたいところですが、それ、カロリーどれくらいですか?

もくじ

  1. 清涼飲料水はハイカロリードリンク
  2. 補水・保水はノンカロリーでデキる
  3. 補:経口補水液の問題

清涼飲料水はハイカロリードリンク

のっけからですが、このジャンルでメジャーな商品の100mlあたりのエネルギーは19〜25kcal。ちなみに潰せるペットボトルで有名になった水もフレーバー付きの商品だと19kcalくらいですね。ボトル一本、500mlに換算すると95kcal〜125kcal。これはどれくらいのカロリーなんでしょう?

  • 運動で消費するなら
    • 歩行:速度によるが25分程度
    • サイクリング:20分程度
    • 階段昇降:10〜30分
    • 軽い筋トレ:20〜30分程度
  • 食事をセーブするなら
    • 米飯:半膳〜軽めの1膳
    • バナナ:1/2〜2/3本
    • 唐揚げ:2〜3個

くらいに相当します。結構大変です。

「スポーツドリンク」という通称が示すとおり、清涼飲料水はスポーツするヒトがスポーツするときに飲めば良いんです。癖になっちゃうと甘くないものは嫌だ!になっちゃいます。(その他、清涼飲料水の多飲についてはイヤになるほどネガティブな報告が出ています:学術論文の検索結果

補水・保水はノンカロリーでデキる

もちろん水分は必要なのですが、清涼飲料水が効果的と言われるのは塩分の構成要素であるナトリウムなどのミネラルや糖分を含むことにより、体内に水分を留める効果を高めているからです(利尿作用のあるお茶や珈琲、アルコール類はこの目的には逆行しています)。このうち糖分はカロリーを含むエネルギー源ですから、飲んでロクに動かないのではカロリー収支はプラスなのです。

目的を果たすには、糖分はほぼ不要。最近は低カロリーの清涼飲料水もありますが、糖分がなくてはならないというものでもありません。飲みやすさという点でのメリットはあるのですが、それで太ってしまったら…

適度な塩分と、何より肝心要の水分があれば良いはずなのです。つまり、タブレットと水でよくない?ということ。長時間の野外活動などですごく汗をかきそうな場合は塩分も少し多めで良いかと思いますが、そうでない場合、つまり通勤退勤の道中で500mlペットに入っている糖分・塩分をすべて他の方法でカバーせずとも、少し意識して水を摂るので十分だと思います。

干し梅とかでも良いのですが、食べ過ぎちゃうと高血圧まっしぐらなので、注意が必要です(あと、変なイメージがついちゃうかも?)。袋に纏めて入っているものよりは、個包装のものの方が良いかもしれませんね。

補:経口補水液の問題

最近良く話題になる経口補水液にも問題があります。

ひとつは塩分が多く、慢性的な大量摂取は高血圧などを助長することが予測されること。

もう一つは味が良くなく、飲みにくいこと。用意しても飲まれないのでは水分は単なる荷物です。脱水気味のところに疲労が蓄積してくると、ダメージが出やすくなってしまうのではないかと考えます。

 

成果を求めるなら成果に拘るな

健康経営においては行動変容が重要であることは言うまでもありません。もとより現状を変えようという営みは須らくPDCAが大事、健康だけでなく本業だってそうだろう!…とは思うのですが、こと健康管理に関しては、「個人が」「長期的に」取り組むことが必要であり、当然、働きかける側にも生活習慣についてのより本質的な理解が求められるものです。

 

もくじ

  1. 単発の成果は目的ではない
  2. というか成果が目的ではない
  3. 成果ではなく行動を褒めよ

…否定形の見出しである1や2のタイトルを見ても「何かしよう」ってなりませんよね。それに比べると、3は少し何かデキそうに思いませんか。今日はそういう話です。

単発の成果は目的ではない(単発でなく持続的な成果を目指そう)

健康経営においては、構成員のパフォーマンスを高め、離脱などによるコストを削減していくことがひとつの目標になります。ですが、経営ツールとして考えれば、施策に逐次コストがかかってくるのはあまり良い状況ではありません。目標としたいのは、「勝手に続けてくれる状況が、最小限のコストを投入すれば維持できること」ではないでしょうか。

例えば来年の健康診断では体重を1kg減らそう!とキャンペーンを張ってみたとして(いちど、この目標の是非は措いておきます)、再来年は?その次は?ということです。無理して減らした社員が多ければ、維持できずにリバウンド…ということも考えられますよね。一度達成した目標は無理せず維持できる…そんなことないよ!というのは営業の方などはいつも思っていることかもしれませんが、ほぼ自動化された収益源をお持ちの方も居ることでしょう。努力しないわけではないが、なるべくコストを掛けないで済むようにしたい。個人にしても組織にしてもそれは同じでしょう。

そもそも成果が目的ではない(健康改善を通して仕事や生活を充実させよう

我ながら、最初からこちらを言えよという気もしますが…体重や血糖値を減らすことは、健康を維持してパフォーマンスや生活の充実を図るための手段であって、目的ではありません。事業でも利益はあくまで手段のはずですが、それを見失って数字!数字!!となることが、いかに我々からやり甲斐を奪うことか。

まずビジョンの共有を!というのがマネジメントの考え方なわけですが、健康経営においても同じです。例えば、

  • 売上を上げるのは、利益を確保して「◯◯◯◯」という当社のビジョンを実現し、世の中を幸せにするためだ→体重を減らすのは、生活習慣病のリスクを回避して、楽しく過ごせる時間を増やすためだ

最低でもこのくらいの置き換え共有はしたいところです。ただビジョンを共有してメンバーの行動が変わるというのは、その価値をメンバーが心から認めたときにしか起きませんよね。健康経営においても、上の例で言えば「病気をしなければその分楽しく生きられる」のような部分について、メンバーが「たしかに、そのためなら今の小さなキルタイムを多少セーブしたり、面倒に感じる仕事の工夫を少しくらいしてみよう」とはならないのです。健康がいかにありがたいかを、ハラオチさせる必要があるのです。ただこれは別記事でも触れたように、お説教臭くなっては効果が薄い。目先の利益に結びつけることでブーストされるのです!

ここは社内研修など様々な場面を活用したいものですが(上の文脈上の極論としては、健康の話だと意識させずに聞く機会を作れるとベター!)、社内のメンバーと産業医が組んで実践していくことが必要なのではと思います。産業医の使い所は本来こういうところなんじゃないかな…

成果ではなく行動を褒めよ

教育経済学、行動経済学と呼ばれる分野の近年の研究では「努力を褒めましょう」という示唆が得られています。曰く、「テストで良い成績を取る」ことに報酬が与えられる場合、「どうしたらそれが成し得るのか」ということに示唆がなく、成績が良いうちはまだ良いとして、伸び悩むと途端に困る。それよりは「本を読め」「単語帳を消化しろ」など、行動そのものをプッシュするほうが、幾ばくかでも効果がありそうですよね(英語文献ですが、興味のある方はこちらをどうぞ)。

例えば「営業成績が素晴らしいね」という褒め言葉。その内容は大変結構なことですが、伸びやなんでいる新人には掛ける機会がないかもしれません。それより「アポの電話を1日に10件もしっかりかけているね」の方が伝えやすい言葉でしょう。もしアプローチの筋が悪いなら、「しっかり業界研究をして訪問先に合わせた提案を組んでみるといい」と具体的なアドバイスを与えることで成績改善に導ける可能性が出てきます。なぜ筋が悪かったのかも判ってくれば、自分で行動を変える力をつけてくれるかも(逆に対案も出さずに「契約をとにかく取れ!」で成果が上がると思っているなら、指導する気ゼロと思われても仕方ありません)。

同様に、「血糖値が下がりましたね」よりは「おやつを食べる日が減りましたね」「主食の量を半分に減らしてタンパク質で栄養を取っているようですね」「3週間続けられましたね」のほうが良いのではないかということです。こうした内容なら、こまめに、かつ状況に合わせてエンパワーメントしやすいですし。もちろんこうした行動だって努力や意識の「結果」でもありますが、行うことそのものを褒め、あるいはリワードを付けるというのが効果的な手法だと考えられます。

ITを駆使するオフィスワーカーに捧げる、簡単エクササイズ ②プランク

前回記事では簡単エクササイズの総論をお話しました。今回からは具体的なメソッドの紹介です。第一弾は、「プランク」です。

もくじ

  1. プランクって?紹介と方法
  2. すぐ現れるプランクの効果
  3. どんな功徳が積まれるか(現世利益あり)

プランクって?紹介と方法

最近ではずいぶんと認知度が上がってきているように思いますが、簡単に言うと肘と爪先で体を水平に支えるアレです。道具は無くても可能ですが、荷重の集中による痛みと汗の対策として、ヨガマットのたぐいがあるとベターです。また、1畳程度のスペースが必要です。

  1. 腹ばいになり、両方の肘から手首までを床につけ、肩幅に開く。肘は90度曲げる。
  2. 胴体から足までを一直線に伸ばすことを意識しながら体を腕で押し上げ、爪先と肘から先で体を水平に維持する。

言葉で書いてもわかりづらいですね。ここでは細い技術の指導を目的にはしていませんので、詳細はググってください!(おすすめ記事はこのあたりコレ(英語)です)笑

意識していただきたいポイントはこちら。

  • 汗をかくのとバランスを取りにくくなることから、カーペットの上などでそのまま行うのは勧めません。
  • 辛い方は膝も床についてしまっても構いません。まずは20秒程度続けられる姿勢を探してください。可能であれば40秒以上を目指しましょう。
  • 腹回りに力を入れてバリカンが上下にぶれないように意識します。
  • お尻が落ちてきた場合には下腹部に力を入れましょう。
  • お尻を上へ突き出してしまった場合には、お尻から腿裏にかけての筋肉に力が入っていない可能性があります。尻を下ろすことより、足を後ろに蹴り出すようなイメージが適切かもしれません。
  • 自分ではまっすぐのつもりでも案外体は折れ曲がっています。自分の頭の中のイメージの体と実際の姿勢とが一致しているということは、それだけ逐次の修正に集中力を咲かなくてよいということです。つまり、他の部分に脳や身体のリソースを使うことができるということなのです。

すぐ現れるプランクの効果

さてこのプランク体幹、すなわち腹筋・背筋に大きな負荷をかけます。また大胸筋など腕の付け根の筋肉にも負荷をかけます。さらにお尻を伸ばす動きが含まれることから、腸腰筋や大殿筋も活躍します。このように、上半身から下半身まで全身の筋肉を動員した運動ですが、特に注目したいのは腹筋と臀筋のトレーニングによる引き締め効果です。

脂肪に比べて筋肉は体積が小さく、同じ体重なら体脂肪率が低いほど体の容積も小さいと考えられます。また筋であれば収縮をかけることによってさらに痩せて見せる事が可能です。さらに同じ肉付きであっても姿勢が悪いせいで太って見えるという要素もあります。腹筋・背筋の力がないと、骨盤の上にキレイに背骨を立てることができず、腹が出るのです。

どんな功徳が積まれるか(現世利益あり)

もちろん当方で紹介する運動ですから、美容とかダイエットとかそんな軟派なことに興味が無いという方や、健康にもっとコミットしたいぜという方にも提示したいメリットがあります。というか、俗っぽいことをしていれば知らずの内に健康になっているというのが趣旨ですのでね。ズバリ、腰痛予防・圧迫骨折の予防、です。

腰痛はなぜ起きるか。内臓の病気ということもあるのですが、筋骨格系の異常が圧倒的に多く、かつ対処もしやすいです。そしてこれらについては、「筋や骨に掛かる負荷が高すぎる」ことでほとんど説明がつきます。筋肉にそのポテンシャル以上の負荷をかければ疲労や痛みがすぐに来ますし、筋肉で支えきれない重みは背骨や椎間板にかかり、痛みや脊椎の変形につながり、圧迫骨折、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など「持病」の原因となります。

さらに「なぜか」考えてみましょう。そんなのわからない、と思うかもしれませんが、ビジネスで「利益がなぜ上がらないのか」と考えるときと頭の使い方はあまり変わりません。売上が低いから、原価が高いから、…と分解していくときの考え方です。

あるいは「敵の攻撃でなぜダメージを受けるのか」。防御力が低いから、相手の攻撃力が高いから、強い技を使ったから、属性の相性が悪いから…

いかがでしょうか?

  • 「筋力が足りない」
  • 「骨の強度が足りない」
  • 「負荷の総量が大きすぎる」
  • 「負荷のかかり方のバランスが悪く、集中している」
  • 「痛みに敏感すぎる」

等々、すぐ挙がるのではないでしょうか。そのまま対策を考えてみると

  • 筋力を鍛える
  • 骨を強くする
  • 体重を減らす
  • 姿勢を正す
  • 痛み以外に注意を向ける

と言った感じでしょうか。このように腰痛の要因を取り除いてやることによって、痛みと縁のない体に近づけることができるのではないでしょうか。体幹の筋力は、特にデスクワークの方ではほとんどの場合に不足している印象です。また年齢を重ねて体力が落ちてくると活動量が減り筋力も落ちやすくなりますし、閉経の影響などでホルモンバランスが崩れれば骨粗鬆症が進行するなど、防御側の問題で様々な変形のリスクが増してきます。言うなれば、上記の疾患たちは老化現象の一部なのです。そして普段から対策を取っていない方は、それが早く来やすくなるということです。

ひとたび筋力が衰えたり背骨が変形してしまうと、そうしたトラブルを抱えながら、「取り戻す」活動に取り組むのは負担も大きいものです。できるだけ若いうちからの対処が望まれますね。

 

 

…ということで、今日から皆さんもプランクはじめましょう。目先の利益を追求しながら、功徳も積んで現世利益を享受しましょう(健康寿命を増進しましょう)

ITを駆使するオフィスワーカーに捧げる、簡単エクササイズ ①総論

筋トレ、してますか?今回から暫く、ITベンチャーで働くオフィスワーカーにお勧めしたいフィットネステクニックをご紹介します。

もくじ

  1. コンディション整備のための運動は、アンチエイジングの実践
  2. どうしたら続けられるのか
  3. 紹介予定のエクササイズメニュー

 

コンディション整備のための運動は、アンチエイジングの実践

究極的な理由を最初に言うと、私の考える「アンチエイジング」の実践のため、です。人間は誰しも老化していくわけですが、それに抗うことの手段として、適度な運動が勧められるということです。

高血圧などの病気がなくとも、血圧も血糖もゼロではありません。当然、体重もゼロではありません。誰しも生きて生活を送る以上、血管や関節への負荷はかかっているのです。これが積み重なったものが動脈硬化やそれに続発する脳梗塞などの病気であったり、圧迫骨折であったりするわけです。しかしその「老化」のスピードは平等ではない。悪しき条件が揃っていると、コンディションの良い場合と比べて、負荷の蓄積していくスピードは早いと考えるとわかりやすいでしょう。多少過激な言い方ですが、生活習慣の乱れは、老化を加速する(このあたりのイメージについては、また別の機会にわかりやすく解説したいです)。それを運動でコントロールしようということ、つまりここで勧めているのは端的に言えば生活習慣病の予防です。

 

どうしたら続けられるのか

しかし、こう言っても運動に飛びつく方はあまり多くないのではないでしょうか。このメッセージに反応するような方は、もうとっくに対策を始めているように思うのです。生活習慣病の予防って、なんだか現世利益がなさそうな感じなのかもしれません(いや、間違いなく現世の話だし、現世に留まるための話なんですが)。

経済学的には、同じ金額であれば将来よりも今あることに価値があるといいますが(割引率とか、そういうワードが出てくる話です)、私たちはお金以外についても目先の利益・楽しみには引きずられやすいものです(ですが、この例えで行くなら、寿命が伸びる話になると、複利ガッポガポということにもなるような…)。

健康のためなら死ねる!という一派がいる一方で、多くの若者には健康についてシリアスに話すことは動機に欠け知見も薄い、難易度の高いタスクかもしれません。要はまだ他人事。健康って食えるの?というのが正直なところではないかと思います。…そのあたりについて「はい、健康は食えます」というのが私の考える正面突破法なのですが、ここではもう少し普通の話をしましょう(笑)。要は運動することの具体的なデメリットが見えにくいために、真剣に考えることができない。そのときにデメリットを明らかにするのも悪くないのですが、いっそ逆にメリットをアピールするほうが素直なのではないかと。健康経営の話じゃないのかよ、と思うかもしれませんが、健康経営はツールです。構成員が幸せになり、組織が隆盛するためのツール。清く正しい方法で使うことにこだわるのも美しいですが、成果を出してナンボであるという考え方でココは話をしていきたい。

美容・ダイエット。モテ。体力増進。仕事のパフォーマンス。

あなたの会社でウケそうな話題はどれですか?

何も日本全体に通用する施策をココであなたに考えてほしいのではありません。あなたの会社・組織に刺さりそうなアプローチを考えてほしいのです。売上のためにはマーケティングをするのに、健康経営にそのロジカルなんとか、ソーシャルなんとかのスキルを使わない手はないと思います。あなたの会社にウケそうな話題がわかれば、◯◯に効くエクササイズ、というキャッチコピーを展開して、結果的には会社の将来をバッチリ良くしていこうと考えられるようになります。どんな妙薬も飲まなければ効果なし。

習慣形成には3週間程度が必要とはよく言われます。その間、とにかく行動が取りやすいように組織的な支援も含めて検討したいところです。自動車のエンジンと似たような話ですが、人間の作業効率は一定時間以上作業へのコミットが継続することで向上するとされています。暫くの間続けて当たり前になったことは維持も容易です。ジムに通い始める社員を支援する金銭的サポート、部門内で一斉に行うラジオ体操。最初の2〜3週での脱落を防ぐために、様々な施策を検討しましょう。「新習慣導入の施策」は会社がやるから効くのです。ジムの会員となるとある程度意識は高くとも生活スタイルは千差万別。その点、ある程度ライフサイクルも含めて共通項の多い会社組織だからこそできる介入があると思いませんか。

そうして習慣が一度定着したあとでならば、説教がましい健康上のメリットについてインプットしていくのも効果が期待できます。黎明期から使っているサービスが有名になるとドヤ顔をしたくなる方も多いと思いますが、自分の運動習慣についても思わぬメリットが有ると判れば努力が褒められているような気がして嬉しいと思います。持てると思って続けていた運動が肩こりを減らしてくれたら、超うれしいですよね。

健康のために会社があるわけではないですが、健康になったら会社のためにもなる、だからこうした支援で元が取れる、という考え方を是非定着させたいと思っています。

 

紹介予定のエクササイズメニュー

さて、総論で長さを取ってしまったので、また機会を改めて個別の記事としてとくに取り入れやすいトレーニングメソッドとその効果について説明していきます。繰り返しになりますが、導入の際には、習慣形成に影響の大きそうなメリットに絞ってお伝えするということがまずは重要です。どんなに優れた方法であろうとも、習慣として定着しなければ意味がありません。極力続きやすく続けたくなるような使い方・導入の仕方というのが重要です。つまり「伝え方」が肝心なので、それらを身体解剖的な解説とセットでお届けする予定です。

  1. 体幹を鍛える「プランク
  2. 肩甲骨周りを柔らかくする「肩周りのストレッチ」
  3. 大きな筋肉を鍛えて代謝を上げる「スクワット(スロー・クイック)」

などについて順に説明していこうと考えています。